直樹は溜息を一つ吐くと、キッパリと言う。
「悪いが俺にはもう付き合っている相手がいるんだ。諦めろ」
だが志保は笑いながら言う。
「またまたぁ。そーんな嘘吐かなくてもいいじゃないですかぁ」
「本当だ」
すると今度は、ようやく直樹の拒絶の雰囲気に気付いたのだろう、眉を寄せて、口を尖らせながら言った。
「……じゃあ証拠見せてくださいよぉ。彼女の写メとかあるんでしょぉ?」
その言葉に、今度は直樹が眉を寄せる。
確かに直樹の携帯には咲の写メがある。
だが、それを見せるのはあまりにもリスクが高い。
いくら咲が私服姿でも、志保が咲の顔を知っていれば終わりだし、知らなかったとしても同じ学校の同じ学年なのだ。いつバレないとも限らない。
「……写メはある。だがこれは俺のプライバシーに関わる問題だ。一生徒であるお前に見せる義理も義務もない」
納得させるには効果は半減だが、これしかこの場を切り抜ける方法はない。
「それよりもう用は済んだだろ。早く帰れ」
そう言って、これ以上は付き合いきれないとばかりに志保を数学教官室から追い出す。
そうして再び一人になった部屋の中で、深く溜息を吐いた。
と、そこへ教官室のドアが再び開いて。
思わず直樹は身構える。
だが。
「……どうしたんだ、直樹」
入ってきたのは他でもない、同じ数学教師の龍矢で。
「なんだ、てめーか」
直樹は一気に脱力した。
「何かあったのか?」
「……嵐が通り過ぎたんだよ」
「嵐?……そういえばさっき、この部屋から女子生徒が一人出てくるのが見えたけど、告白でもされたか?」
からかうようなその言動に、だが直樹は嫌そうに言う。
「ああ、そうだよ、その通り。地獄だったね」
「それは災難だったな」
苦笑しながら言う龍矢にも、少なからず経験があるのだろう。
直樹と同じく生徒を恋人に持つ龍矢にとっては他人事ではない。
「きっぱり断ったのか?曖昧に濁すとかえって逆効果だぞ?」
「彼女いるから諦めろって言って無理やり追い返した。写メ見せろとか言ったけど、流石に見せる訳にはいかねーし」
「確かにな。ま、それが一番妥当だろ」
頷く龍矢に、直樹はもう一度溜息を吐いた。
「これでもう付き纏われないといいんだが」
そうなる事を切に願って。