スーパーに着くと、直樹は買い物カゴを持ってやり、咲に聞く。
「で?何買うんだ?」
「えっと……王林とレタスとスウィーティオと、ついでにマカロニです」
「…………」
 買ってくる内容が、そのものズバリ先程母親に言われた内容で。
 だからあんな質問だったのか、と改めて思った。

 スーパーの入り口に一番近い所に、様々な果物が並んでいるのを見て、二人はそこから見ていく。
「王林は確かりんごだったな。これでいいのか?」
 そう言って直樹は、手頃な赤いりんごを手に取ったのだが。
「直樹さん。それ、ふじりんごです」
「……じゃあ、こっち?」
「それはジョナゴールドって書いてあるじゃないですか。王林はこれです」
「なんだ、王林って青りんごの事か」
「はい。おば様、歯応えの軟らかい王林の方が好きみたいで」
 咲の話によると、細かく刻んでヨーグルトに混ぜて食べるのだそうだ。
 普通のりんごだと歯応えがありすぎて、自分の好みには合わないらしい。
「へー。そういえば青りんごって意外に食べた事ないな」
「じゃあ今度食べ比べしてみたらどうですか?」
「……まぁ、気が向いたらな。次はレタスか」
 そうして果物売り場の次に見える野菜売り場の方に歩き出した直樹を、咲が引き止める。
「あ、ちょっと待って下さい。その前にスウィーティオを……」
 そう言って咲は直樹の傍から離れる。

 そうして取ってきたのは。
「……バナナの事だったのか。そうならそうと言えばいいものを……」
「確かにバナナなんですけど……バナナにも色々種類があるんですよ?グレイシオとかモンキーバナナとか」
「じゃあスウィーティーってのは?コーヒーに入れるシロップか何かか?」
「直樹さん、それ、本気で言ってます……よね」
 半信半疑にそう聞いてくる咲に、直樹は自分が見当違いの事を言ったのだと理解した。
「えっと……緑色のグレープフルーツって言えば分かりますか?あの、結構ガムとかであるんですけど……」
 おずおずとそう言う咲に、だがガムなど日常あまり口にしない直樹にとってはやっぱり分からず、首を傾げた。
「さぁ?ま、いい。取り敢えず果物って事でいいんだな?」
「はい。じゃあ、レタスを選びましょうか」

 野菜売り場に移動した二人は、レタスを選び始める。
「これでいいんじゃないのか?」
 直樹は葉っぱの綺麗めなモノを選んで咲に渡す。
 だが咲は渋い顔だ。
「うーん……これより、こっちかなぁ?あ、でもこっちの方が……」
 咲は比べるように両手にレタスを持っては、片方を変えて、同じ事を繰り返す。
「そういやお袋が言ってたな。美味しいレタスの見分け方がどうこう……」
「レタスは軽い方が美味しいんですよ?ちなみにキャベツはその逆です」
「ふーん」
 普段何気なく食べていたが、裏にはこういう主婦の努力があったのか、と直樹は少しだけ感心した。