日々が何事もなく過ぎていくある日。
「失礼しま〜す!新聞部ですが、取材に来ました〜!」
「「は?」」
 昼休みの数学教官室にいきなり二人の生徒にそう来られて、直樹と龍矢は呆気にとられる。
「取材って?」
 先に気を取り直したのは龍矢だ。
「あ、はい。女生徒達からの要望があってですね、月羽矢学園高等部の人気男性教師であるお二人に、突撃取材に参りました!」
「突撃取材?」
 直樹が訝しげにそう聞くと、新聞部員は説明を始める。
「こちらで用意した質問に答えて頂ければいいです。それで、最後にお二人の写真を撮らせて頂ければ」
 確かにもう一人の生徒はカメラを首から提げている。
「そんな事……」
「分かった、いいよ」
 面倒臭いからと断ろうとした直樹を遮って、龍矢がそう言う。
「龍矢」
「生徒からの頼みを無碍に断るなんて出来ないだろ」
「っつってもなぁ……」
「それにお前、普段から言ってるだろう。“生徒の自主性を尊重する”って。これも立派な自主性だと思うが?」
「ぅ……分かったよ、付き合えばいいんだろう」
 痛い所を突かれて、直樹は渋々了承する。
「だけど、こちらにもプライバシーはあるからね。答えたくない質問には答えないから、そのつもりで」
 だが、龍矢は笑顔で新聞部員にそう釘を刺すのを忘れない。
「取材に応じて頂けるのなら、そのくらい全然平気です!」
 そうして、取材が始まった。

「まず、お二人の名前をフルネームでどうぞ」
「早坂直樹」
「盾波龍矢」
「では、次に生年月日・血液型をお願いします」
「パス」
「……直樹」
 いきなりの直樹のパス発言に、部員は戸惑う。
「な、何でですか?」
「そんなの決まってるだろ。ただでさえ、調理実習で作ったお菓子を食べて下さいって生徒がいるんだぞ?バレンタインも毎年持ってくる生徒は絶えないし。 そんなんで誕生日なんか知られてみろ、ここぞとばかりにプレゼント持って来る生徒がいるに決まってる」
「成程」
「まぁ、そういう訳だから、生年月日はナシにしてくれるかな」
 苦笑しながらそう言う龍矢に、部員は快く頷く。
「じゃあ、その辺りは先生からのコメントって事で入れておきますね。生徒からのプレゼントは受け取らない主義だとかって」
「助かるよ」
「あ、でも星座くらいは教えて頂きたいかなぁと。あと血液型も」
「星座なんか知ってる訳ないだろ。血液型はB」
「……直樹、その言い方はどうかと思うぞ。俺は牡牛座のAB型だよ。直樹は……12月の始めだったよな?それで分かる?」
 直樹に向かって呆れたように言いながら、質問に答える龍矢に、部員は頷く。
「それだと……射手座ですね。早坂先生にぴったりじゃないですか!」
 射手座は半人半馬のケンタウロスが弓を引いている姿がモチーフとなっている。
 弓道をやっている直樹には、通じるものがあるだろう。
「ま、悪くないな」
 満更でもなさそうな直樹の言葉に、龍矢は苦笑した。