「しっかしアイツ等もしつけーよな。ったく、ガキが教師との恋愛夢見てんじゃねーよ」
 この言葉に、咲の表情が変わった事など、俺はこの時全く気付かなくて。
「私、もう行ってもいいですか」

 淡々と。抑揚の無い声。
 そこで初めて、少し様子がおかしいと思った。

「あぁ……あ、そうだ。目、大丈夫か?もう何ともない?」
「平気です」

 おかしい。こちらを全く見ようとしない。
 いつもなら、ちゃんと俺の方を見るのに。
 それにこの硬質な態度。
 原因は何だ?

「咲?何かあったのか?」
 心配になって、俯く咲の顔を覗き込むように言う。
 だが咲は、そんな俺をキッと鋭く見据えて。
「……っそんな風に名前で呼ばないでよ!」
 その場から逃げるように走り去ってしまった。

 ……その瞳に涙を浮かべて。

「……咲……」

 俺は、追う事が出来なかった。
 何故なら咲は、俺が発してしまった言葉によって、傷付いていたのだから。

 追う資格など、俺には無い。
 咲の気持ち。俺は知っていたハズなのに。
 つい口から出てしまった言葉ではあるが、よりにもよって、どうして咲の隣で言ってしまったんだろう。
 咲は一体、どんな気持ちで聞いていたんだろうか。
 あんなに瞳に涙を浮かべて。
 泣いていた。

 ……泣かせてしまった。

 自分の軽はずみな言動が、酷く悔やまれた。
「咲……俺は……」


 俺はまだ、気付いていなかった。
 咲を一生徒として、見れなくなっている事に。