結局咲がいたのは、休憩場所から少し離れた人気の無い場所で。
 どうやら告白されているようだった。

 しかも。
「……アイツは確か……弓道部の……」
 だがどうやら、咲は断ったようだ。
 ……追い討ちを掛けるようで悪いが、お前はもう暫く部活でゴム弓決定。
 などと勝手な事を考えながら咲の方に目を向ける。
 咲は暫くその場にいたが、少しして戻っていった。

 咲の後姿を見ながら、俺は自分の立場を呪った。
 自分の、教師という立場を。
 どうあったって、俺と咲とでは立場が違う。
 俺は教師で、咲はその生徒。
 それは、決して許される事のない壁だ。
 それを今、見せ付けられた気がした。

「……あぁ、そっか……何だ、俺……」
 ここにきて俺は、ようやく自分の気持ちを自覚した。
 いや、認めたくなかっただけなのかもしれない。
 相手が、自分の生徒だったから。
 自分より十歳も年下の生徒。

 ……いつからだろうか?
 こんなにも、気持ちが膨らんでいったのは。
 もう後戻り出来ない程に。
 それでも。
「諦めるべき……なんだろうな……」

 周りの目とか、色々なしがらみとか、理由は沢山ある。
 だが一番の理由は。


 咲を傷付けてしまった自分に、もうその資格はないという事。


 こうして、一泊二日に渡る俺の野外生活は終わりを告げた。



【用語補足】=ゴム弓:弓道を始めたばかりの初心者が、まず弓を引く事に慣れる為の道具。
 ほぼ弓束(弓を握る部分。握りとも言う)だけの、二十センチぐらいに切られた弓の上部に太いゴムが設えてあり、それを弦に見立てて引き、本格的な射形の練習をする。