ヤバイ。
 今思わず笑っちゃったの、先生絶対気付いてる。
 そして怒ってる……!

「せっ……直樹、さん。何でもナイデスヨ?」
 しどろもどろになって、一応は否定する。
「そう……ならいいけど」

 ……って、今の言葉と雰囲気全然合ってないんですけど!

 スッと目を細められたし。
 てか、静かに怒ってる先生滅茶苦茶怖いんですけど……。
 何か別の話題、とも思ったが、何も思いつかない。

「そういえば……」
 そんな時、天の助けと言わんばかりにおばさんが口を開く。
 助かった!
 しかし、そう思ったのは一瞬だけで、続けて発せられた言葉に咲は固まるしかなかった。
「直樹の勤めてる学校って、確か咲ちゃんの通ってる月羽矢学園よねぇ?あ、咲ちゃん、この子こう見えて先生なのよぉ」
「そう、ですか……」
 どうしよう。
 だが、直樹はしれっとした態度で言う。
「へぇ、咲ちゃん月羽矢の生徒なんだ。じゃあ何処かで会うかもね」
 その言葉に咲は呆れる。

 何処か……ですってぇ!?
 毎日朝と帰りのHRで顔を合わせてるのに?
 授業中にも顔を合わせてるのに?
 とぼけた事言うのはその口ですか!?
 よくもまあいけしゃぁしゃぁと実の母親に嘘が吐けますね。

 そう言い出したいのを堪えて様子を窺っていると、おばさんはさも残念そうに言った。
「そうよねぇ、あの学校広いし……残念だわぁ。直樹が学校でちゃんといい先生やってるか知るチャンスだと思ったのに」
 そうして溜息を吐いて。
 だが、それでもめげずにこう言った。
「もし学校で会ったらどんなだったか教えてね」
 と。
 それにしても。

 いい先生……ねぇ。

 咲はチラッと直樹の方を見て、普段の彼の言動を思い出してみる。

 まぁ、いい先生だとは思わなくもないんだけど……性格に少々難ありってトコ、かな?

 咲がそう考えていると、直樹は視線を合わせてきた。
「咲ちゃんは可愛いし、真面目で優秀そうだし……きっと物凄く良い生徒なんだろうね」

 ……え?
 い、今、可愛いって言った、この人!?
 仮にも先生がそういう事言う!?

 困惑していた咲だったが、続けて言われた言葉に納得がいった。
「あーあ。俺にも進んで担任の雑務とか手伝ってくれるような可愛げのある生徒が欲しいなー」

 つまり。
 要は“俺の雑用係になれ”と。
 そう言いたいんだなー!?

「もし咲ちゃんが俺の生徒だったら手伝ってくれるだろうね」

 うっわ、この人あからさまに手伝えって言ってる。
 そんなに笑っちゃったのが許せませんか。
 根にもつなぁ。
 ……こんな人が先生やってていいんだろうか?

「……そうですね」
 言いたい事をグッと堪え、諦めるようにそれだけを言って了承の意を伝える。

 だって先生怒らせると何か怖いんだもん……。

 そう咲が思っていると、直樹は今度こそ優しい微笑を見せて。
 直視できなくて咲は視線を逸らす。

 ……そこでその顔は反則なんじゃないんですか?