「そこのお二人。ちょっとよろしいですか?」
 デート中に突然、占い師と思われる人物に声を掛けられ、二人は足を止める。
 その人物が言うには。
「お二人は別れた方が、お互いの為になると出ていますよ」
 との事だった。


≪占い≫


【時音&道行の場合】


 だが。
「それで?」
 道行は至極つまらなさそうにそう聞いた。
「え?……ええと、ですから、このままお二人が一緒にいる事は……」
「それはさっき聞いた。……何がしたいのかな」
 そう言う道行の声は、普段よりも若干低く感じられて。
 時音は心の中でこっそりと相手に同情した。

 いきなり“別れた方がいい”みたいな事を言われて、ムッとしたのは確かだが。
 それよりも、今の道行の状態を見て、相手がこれから受けるであろう仕打ちを考えると、そちらの方が可哀想に思えてくる。
 ……きっと、反論のしようもない程に打ちのめされて、冷ややかな視線を浴びるハメになるのだろうから。

 時音がそう思った通り、道行は冷ややかな目元のまま、微笑を口元に浮かべて言う。
「見た所、占いを生業にしている訳ではないようだけど?それらしい格好はしているけれど、料金は表示していないし」

 道行の指摘通り、あくまでも見た目は占い師と思しき格好だ。
 折りたたみ式であろう簡素なテーブルに布を引いて、その机の上にはカードのようなものなどもあったりして。
 だが、路上で店を開いている占い師は、必ずと言っていい程、占いの料金や占い方法を表示しているハズだ。

「それともあれかな。興味を持った相手に続きを話して、占ったから金を払えとでも言うつもり?……そんな訳ないよね。それじゃあ悪徳商法だから」

 唐突に言われた内容に、少なからず不安を抱いて質問しただけで、占って貰う意思はないのに、聞いたのはそっちだと一方的に契約の成立を主張するのは立派な悪徳商法と言えよう。
 それが、料金の表示をしていないなら尚更で。

「ああ、それとも相手の不安を煽って、何かを売り付けようって魂胆?」
 すると相手はあからさまに動揺を見せて。
 道行はここぞとばかりに畳み掛ける。
「何の効果もない普通の品物を、効き目があるとばかりに誇大広告して高値で売り付けるのは、開運商法っていう悪徳商法だよね。そもそも、この場所の 使用許可は申請してあるの?どこかの敷地内ならその管理者に。路上などの公共の場であれば警察に事前申請しないと、それも違法だ」
 その言葉に、相手は明らかに顔色を悪くしている。
「……もしも、純粋に占い師を目指す修行中の身で、場所の使用許可も得た上で、善意から道行く人を占っているというのであれば……先程からの失礼な言動は詫びるけれど……」
 道行はそこで言葉を一旦切る。
「実際の所、どうなのかな……?」
 絶対零度の微笑。
 それを向けられた相手は、短く“ヒィッ!”と悲鳴を上げて。
 慌てたようにその場をざっと片付けて去って行った。

「なんだあれ位で、情けない」
 あれ位、と言うが、実際に道行のは怖いものがある。
 なまじ整った顔をしているだけに、冷酷無比な印象を受けるのだ。
「……あの人、何を売ろうとしてたんだろうね」
「さあね。ま、俺達に売り付けようとしてたんだから、安物のキーホルダーとかストラップじゃないのか?ま、開運商法が悪徳商法って言っても、品物の原価が販売価格と著しい差があればの話だな」
「じゃあ、もしかして値段によっては違法じゃなかったって事?」
「そういう事になるな。ま、俺達にはもう関係ない話だ」
「そうだね……」
 あっさりと切り捨てるように言う道行に、時音は心の中でやっぱり先程の人物に同情した。