夏休みや冬休み等の長期の休みは、学生にとっては嬉しい限り。
だけどそうとも言っていられなくて……。
【朱夏の場合】
「ちょっと気になったんだけどさ……」
「ん、何?」
「お前……宿題って進んでるの?」
「何で?」
怪訝そうに愁に言われて、朱夏は怪訝そうに返す。
「や、だってさ……俺はお前が部活やってる時とかに結構進めたけど、お前、俺が遊びとかに誘うと絶対来るじゃん。だからさ」
「んー……まぁ、実際全然やってないんだけどね」
あっけらかんと言われた言葉に、愁は一瞬聞き間違えたのかと思う。
「ぜ、全然?」
「うん、全然」
「全く?」
「全く」
「まさか1ページも手を付けてないなんて事は……」
「勿論。宿題自体、未だに鞄の中」
ニッコリと、それはもう極上の笑みでそう言われて、愁は思わず怒鳴る。
「は……はぁ!?お前何考えてんだよ!休みなんてもう数える程しかないだろ!?」
「うん、知ってる」
それでもまだ笑みを浮かべる朱夏に、愁は至極真面目な表情で言う。
「……俺は宿題の中身写させないからな」
「そんな事誰にも頼まないし」
「じゃあどうするんだよ」
怪訝そうにそう言う愁に、朱夏は唐突に話し始める。
「去年さー。高校初めての夏休み。宿題最初の方に全部終わらせちゃったのね」
「お、おう?」
「そしたらさー……休み明けすぐにある実力テストの結果が散々で」
朱夏の言う実力テストとは、休み明け、始業式の次の日から二日間を使ってやるテストの事で。
主要五教科を初日ニ教科、二日目に三教科と分けて行われるのだが。
「実力テストって、問題の殆どが宿題から出されてて。中には全く同じ問題もあるの」
「だ、だから?」
「だから、休みの最終三日間から一教科ずつ、テストの日程順に終わらせていくの」
言っている事は簡単だが、実際にやるとなると、相当集中力が必要だと思うのだが。
「一日一教科。終わらない量じゃないし、ウチの学校、宿題はそれぞれの教科の最初の授業の時に提出でしょ?最終日迄に終わらせなくちゃいけない、なんて事はないのよ」
そう言う朱夏に、愁は絶対に無理だと思った。
そうして休み明け。
朱夏は各教科の最初の授業できちんと宿題を提出し、テストの成績もクラストップの座をキープした。
これにはさすがの愁も、唖然とするしかなかった。