駅を出てすぐに、離れた所にいる礼義、朱夏、璃琉羽の三人の姿を見つけた時だった。
誰かが物凄い勢いで智の横を走り抜けて行った。
「え……?」
その誰か、というのは他でもない愁。
愁は三人の元へ行くとチラッと朱夏を見て、明らかに不機嫌だと分かる程声を低くして、礼義に向かって言う。
「テメェ、何ヒトの女に声掛けてんだよ」
「ちょっと愁!」
だが礼義は特に怯む様子もなく朱夏に聞く。
「えっと……朱夏さんのお知り合いですか?」
「っ!テメ……っ気安く名前呼ぶんじゃねーよ!」
朱夏の名前を礼義が呼んだ事に対し、事情を何も知らない愁は礼義に掴みかかった。
「愁!」
「お前も何楽しそうに話してるんだよ!?」
止めに入る朱夏に、愁はそう怒鳴った。
と、そこでようやく智が慌てて割り込んだ。
「白山君!その人、私の彼氏なの!」
「……南、里?」
智の突然の登場に愁は呆気に取られ、朱夏はここぞとばかりに彼に反論する。
「そうよ!それによく見なさい。璃琉羽だっているのよ?もしかしたら璃琉羽の彼氏かも、とか思わないワケ?」
朱夏に指摘され、愁はそこで初めて璃琉羽の存在に気付いたようだった。
そうして慌てて礼義の襟元を掴んでいた手を離す。
「悪い!早とちりだった!」
「ったく。人の話はちゃんと聞きなさいよねー」
朱夏のなじるようなその口調に愁はムッとし、険悪なムードになりそうな二人を、礼義が宥めるように口を開く。
「まぁまぁ。それってつまり、朱夏さんしか目に入ってなかったって事でしょ?愛されてるじゃないですかー」
礼義のその言葉に、朱夏は真っ赤になって、だが嬉しそうに礼義の背中をバシバシと叩く。
「ちょ、もーヤダ礼君、何言ってんのよー!」
「朱夏さ……ちょ……痛い……」
「朱夏!もう、礼君が痛がってるから!」
智がそう言うと朱夏は、たはは、と笑って言う。
「ゴメン、ゴメン。いや、礼君があまりにも唐突に言うからさー」
「もう……礼君、大丈夫?」
「うん、平気」
そう言って智と礼義はお互いに微笑み合う。
「でも……朱夏の照れてるトコってなかなか見れないんだよね」
「あ、そうなんだ」
二人がそう言っていると、朱夏の“うわっ”という声が聞こえた。