「何なんだよ、一体!」
 掴まれていた腕を振り解き、愁は二人を睨みつけるように怒鳴った。

 朱夏の表情の意味も分からないのに。

 そう思って余計に苛々していると、二人が溜息を吐く。
「お前……今、物凄く最低の男だぞ」
「はぁ?」
「朱夏さん多分、一緒に観覧車に乗るの、楽しみにしてたんじゃないですか?」
「……知らねーよ」
 すると緋久と礼義は、やれやれといった感じで再び溜息を吐く。
「ずっとグループ行動だったし、二人きりになりたかったんだろ」
「それにココの観覧車にはジンクスもありますしね。知らないんですか?」
「ジンクス?」
 愁が怪訝そうな顔をすると、「やっぱり知らなかったんですね」と返ってきた。

「ジンクスって何だよ?」
「……観覧車が丁度一番高い所まで来た時にキスすると、ずっと一緒にいられるって話」
「……初耳だ」
「有名なんですけど……ま、女の子なら誰でも憧れる話ですよね」
「……朱夏も……?」
 まるで自分に問いかけるかのように愁は呟く。

 じゃあ、あの泣き出しそうな表情は……。

「マジかよ……」
 朱夏の事だから、てっきり全員で乗るのかと思った。実際乗れなくもないし。
 何だかんだ言って、やっぱり朱夏も普通の女の子なのだ。
 普段おおよそ女の子らしいトコなんて見せないから、それを失念していたらしい。

「……謝ってくる!」
 そうして朱夏の元に駆けて行った愁を見て、礼義と緋久は苦笑する。
「やれやれ、ですね」
「だな」
 二人共、今こうして彼女といられるのは、朱夏のお蔭と言っても過言ではない。
 だから、朱夏にも上手くいって欲しい、というのが本音だ。


「朱夏!」
「……何よ」
 朱夏は先程までの泣き出しそうな表情とは打って変わって、不機嫌な表情だった。
「観覧車、乗るぞ」
「あ、ちょっと!?」
 そんな朱夏の腕を引っ張って、愁は強引に観覧車へと向かった。
 その様子をただ唖然と見ている事しか出来なかった、智と璃琉羽は、緋久の声に我に帰った。
「じゃあ俺達も乗ろうか、観覧車」