観覧車に乗った愁と朱夏だったが、お互いに何も話そうとはせず、沈黙が流れる。
先にそれを破ったのは朱夏だ。
「ねぇ……何で急に乗る気になったの」
愁は一瞬躊躇って、視線を外に向けて言う。
「聞いたから。……ジンクスの事」
「!」
チラッと視線を朱夏に向けると、真っ赤になって俯いていた。
その予想外の反応に、愁は目を瞠った。
そうして、少しだけ嗜虐心が芽生える。
「なぁ、お前も信じてたりする?ジンクス。俺はさっき聞いたばっかなんだけど」
「べ、別にっ?信じてないわよ!」
朱夏のその言い方に、愁は彼女らしいなと思う。
本当は信じてるクセに。
意地っ張りで素直じゃない。
ま、そこも可愛いと思えるんだけど。
愁はクスリと口の端を上げる。
「そっち、行っていいか?」
「な、何で」
「ジンクス、試すから」
気付けば観覧車はもう頂上付近だ。
「え、ちょ……!」
愁は朱夏の隣に行くと、有無を言わさずその唇を塞ぐ。
そうして頂上を過ぎるまで、そのままキスをし続けた。
「……っ何すんのよ!」
唇を離した途端、朱夏がそう怒鳴る。その顔は真っ赤だ。
「何、じゃねぇだろ……今日は一応デートなんだから、少しくらい恋人らしい事したっていいだろ?」
「う……そう、だけど……」
言葉に詰まった朱夏は、自覚しているのか、顔が赤いのを隠すように前髪をいじる。
そんな朱夏を更に苛めたくなって、愁は耳元で囁くように言う。
「俺、今日一日中ずっと苛々してたんだよね。誰かさんが構ってくれなくて」
「ちょ……誰かさんて私!?待ってよ、話し掛けてもずっと素っ気無い返事しかしなかったのは誰よ!」
「だからって、他の奴に話し掛けなくてもいいだろ?」
愁のその言葉に、朱夏は「ん?」と眉根を寄せる。
「……もしかして、拗ねてた?それともヤキモチ……」
朱夏がニヤニヤしながらそう指摘すると、愁はムッとする。
「ウルサイ。……とにかくもうお前、黙って責任取れよな……」
そう言って愁は、ゴンドラが地上に着く寸前まで、何度も朱夏にキスをした。